我が国は世界有数の地震国であり、地震による災害は国民生活上には勿論、社会的にも大きな影響を与えるものです。免震構造は、地震動からくる破壊的な力を免震部材により柔らかく受けとめ軽減させることができます。近年、この免震構造が注目され様々の技術開発が行われ、その優れた耐震安全性及び機能維持性が広く国民に認められた結果、免震構造の建物が次々と実現してまいりました。
しかしながら、免震構造は永い伝統を持つ耐震構造に比べ歴史も浅く経験も少ないため、広く普及させるにはさらなる研究や整備が必要と考えられます。より豊かで、より確実な耐震技術の発展は、我が国のみならず世界の地震地域に住む人々の願いであり、国際組織との協力も必要です。そこで、貴重な資産の形成保全を図るためには、免震構造に関する調査研究の充実による設計、施工、部材、維持管理等に対する技術の向上と安全性の確保を的確に推進指導できる組織が必要です。
免震構造の適正な普及を図るため、学識経験者、設計事務所、建設業及び免震部材製造業の関係者により、1993 年 6 月任意団体「日本免震構造協会」を設立しました。平成 11 年 4 月 1 日には社団法人としての許可を受け、1999 年からは「一般社団法人日本免震構造協会」としての許可を受け活動を続けております。
協会設立経緯概要
1970 年代前半には、地震動の観測記録が得られるようになり、建築物がどのように揺れるのかという解析もこれらの実測波形を用いてできるようになってきました。1975 年頃から日本でも新構法としての免震構造に関して設計者や研究者が開発を行うようになっていました。まだ「免震」という用語が明確に定義されていたわけではなく、建物に地震力を何とかして伝えないように、あるいは建物に入る前に地震エネルギーをどうにかカットできないかということでありました。1970 年代後半になると、梅村魁(後の協会初代会長)、多田英之、山口昭一(後の協会 3 代会長)、和田章(後の協会 5 代会長)、長橋純男、寺本隆幸、可児長英、天羽信也等 10 名近くの方々が定期的に会合をもつようになり、1978 年頃から福岡大学の多田研究室では「免震装置」に関する多くの実験が行われました。1980 年代前半には総合建設会社や免震装置製造会社でも研究開発が行われ始めました。1981 年には建設省の「新耐震基準」が施行されました。同年、北川良和の紹介により山口昭一等はニュージランドの最初の建築家の名を付したウィリアムクレイトンビルの見学をしました。このとき鋼材の研究をしていた R.G. Tyler に会い鋼材ダンパーのヒントを得ました。1982 年に、多田英之、山口昭一による日本初の免震建築物「八千代台住宅」が設計され、1983 年に竣工しました。このとき、日本建築センターの低層コンクリート委員会(委員長園部泰寿、委員村上雅也、西川孝夫等(後の協会 4 代会長))に提出し承認され、半年後、実建物の稼働実験をする条件で認可されました。その後、免震構造研究会(委員長中野清司、後の協会 2 代会長)が設置され澤田美喜記念館が建設されました。これを契機に総合建設会社での免震の研究開発が一段と加速した。 1985 年から日本建築センターで免震構造評定が開始されました。そのころ多田英之、山口昭一等の働きかけで、日本建築学会に免震構造の委員会を設けようとの動きがあり、1986 年に免震構造小委員会が設置されました。小委員会では 40 名ほどの委員が集まり、建物や装置の設計、施工あるいは維持管理などについて、活発な議論が行われました。1988 年に日本建築学会の免震構造小委員会において「免震構造協会」の設立の提案がなされましたが、時期尚早とのことで見送られ、その後 1992 年 6 月に第 1 回協会設立準備会を開催しました。1993 年春には、設立趣意書・組織・定款・運営規則・事業計画・予算・役員・委員会・事務局等の案を固め、1993 年 6 月 17 日、鉄鋼会館にて出席者 44 名で設立総会及び理事会を開催しました。会長は梅村魁、副会長は救仁郷斉、山口昭一、武田寿一が決定し、理事 39 名・監事 2名で協会は発足しました。
協会設立後、逐次免震構造に関する調査研究を重ね、設計、施工、部材関係、維持管理関係等の規準を作成しました。これらに基づき講習会、現場見学・研修会及び講演会等を実施して技術者養成並び技術指導にあたり、免震建築に対する啓発普及を図るとともに関係業界の伸展に貢献してまいりました。免震建物の適切な施工、維持管理点検の技術者育成を目的とし、平成 12 年には免震部建築施工管理技術者の資格制度を発足し、平成 15 には免震建物点検技術者の資格制度を発足いたしました。また、平成 16 年には国土交通省より指定性能評価機関としての指定を受け、免震部材・免震建物の性能評価業務も行っております。
一般社団法人日本免震構造協会はこれからも、免震構造の適正な普及を図るとともに、より確実な耐震技術の発展と安全で良質な建築物の整備に貢献し、もって国民生活の向上に寄与する活動を続けてまいります。