去る6月8日に開催された総会での理事会において会長に任命されました。微力ながら、(一社)日本免震構造協会の発展に力を注ぐ所存ですので、会員の皆様の更なる御協力をお願いします。1993年に当協会が設立され、初代会長が梅村先生、2代目が中野先生、3代目が山口先生、4代目が西川先生、5代目が和田先生そして私が6代目となります。
私が当協会で活動し始めたのは、会員の皆様が法人化に向け忙しく活動していた時でした。会員の皆様が免震の普及に向かっていろいろ活動している時で非常に活気がありました。私は、当時副会長であった山口先生の提案で発足した免震住宅勉強会(後の戸建て住宅委員会)に委員として加わり、その後、委員会が理事会にて正式に承認されたことを受け、住宅委員会の委員長にいきなり抜擢されたことを昨日のように覚えています。
そのころは、阪神淡路大震災のおり、近くに免震建物が2棟建っており、従来の耐震設計で建てられた建物は大被害を受けたにも関わらず免震建物は無傷であったことが報道され、免震構造の建物がかなりな勢いで増えている時でした。その後、大地震が度々ありましたが、免震建物はほとんど無傷で、その結果、免震の建物も少しずつ増えていきました。現在は、庁舎、病院のみならず、マンション、事務所、物流倉庫といったように多岐にわたる用途に採用されています。規模としても制振構造の領域でもある建物高さ200m前後の建物にも免震構造が採用されています。このことは、免震材料の性能が高いばかりでなく、設計技術、施工技術その後の維持管理が非常に高い水準まで達した証でもあると考えます。
また、当協会としては免震構造ばかりでなく制振構造をいろいろな角度から研究し、その普及も図っており、世の中の建物全てが免震構造か制振構造であることを願っています。その結果、震災に強い都市の建設が可能となります。
当協会設立から間もなく30年を迎えますが、残念なこともありました。当協会のモット-は健全な免震建物を造る事でしたが、免震材料のデ-タの改竄がありました。その後、このようなことの無いようにと、実大動的試験機の設置の必要性を感じ設置活動をしてきました。現在、試験機設置に向け一般財団法人を設立し、その管理のもと神戸のE-ディフェンスの敷地内に建設中であり今後、免震部材・制振部材の動的試験を行い、その動的性能の確認に寄与する事と考えます。日本免震構造協会としては、この試験機の多いなる活用に協力していく所存です。
皆さんもご存じの建築基準法第1条には次のように書かれています。「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」。昔は、この精神をかなえるべく研究者や技術者の方々が切磋琢磨し技術の向上に励んできました。現在は免震構造、制振構造という技術が高いレベルまで確立されていることを考えると、地震国日本において建築基準法第1条の目的を果たすのは、現時点においては、免震構造又は制振構造しかないといっても過言ではないと考えます。都市防災という観点からも、今後、建物に合った免震構造、制振構造のどちらかを採用する環境づくりが大切と考えます。
免震構造・制振構造を採用している建物の規模は非常に大きくなっているが、ここ数年、免震建物の数が減少気味なのが現状です。最近の出来事として、熊本地震発生時、免震建物はほとんど被害がなかったにも関わらず、その後の免震建物の棟数が増えていないのが気になる所です。
今後、免震の建物をいかに増やすべきかが当協会としての重要課題と考えます。ご存じのように、大地震時に免震建物は、建物自体ほとんど被害を受けていないばかりか、建物内の家具、什器、設備機器など、ほとんど被害も無く人命の確保ができているのが従来の耐震建物と大きく異なる点です。その結果、大地震後は通常通りの社会活動や社会生活を営むことが可能となり、瓦礫の山を築くことなく人命を守り、自然環境にも大きく寄与するという事を力説したいと思います。仮に、従来の耐震建物が免震構造か制振構造であったなら、大地震後に発生する瓦礫の量は如何ばかりか?ゼロとは言わないが、かなりな量は少なくなると考えられます。
日本免震構造協会の創立当時は、免震構造・制振構造は特殊な工法と考えられており、研究する課題もたくさんありました。実際の建物に採用するにはかなり高いハードルを越えなければなりませんでしたが、現在ではいろいろな問題も徐々に解決され、かなり広い範囲の建物用途や超高層建物にも採用されており、今や特殊な工法ではなく一般的な工法と認識されつつあります。当協会としては、今後、一般の方々に認識していただく環境づくりをすると共に、私見ではありますが、次のステップとして、構造一級建築士ならだれにでも免震の設計ができる「簡易免震設計法」の研究を行う時期に来ていると考えます。
免震設計ルート1が「簡易免震設計法」、ルート2が「告示免震設計法」、ルート3が「時刻歴応答解析設計法」で、ルート1~3は法適合確認対照とし、建物高さ60mを超え、ルート3で審査できない、特殊な建物は国土交通大臣認定を受けるといった免震設計体系が出来ればと考えています。
来年は、協会設立30周年記念及び関東大震災発生100年に当たります。当協会としては、大々的な催しを考えていますので、会員の皆様のご協力をお願い申し上げます。